切れないハンドル

お酒と結婚したいアラサー女は今日もまっすぐ歩けない

雨の夜に

電車に乗ったら、正面に座っている女性がハンカチで顔を覆って泣いていた。

見た感じでは葬式帰りってわけではなさそうだし、どうしたんだろう。具合が悪い様子でもなさそう。でもずっと顔を覆って泣いている。

 

江國香織のデュークという短編を思い出していた。愛犬を失った女性が電車の中で人目もはばからずシクシクと泣く場面がある。

私はデュークを読んで何度泣いたかわからない。なんとなく、目の前にいる女性にもなにかそういったストーリーがあるのかと、勝手に想像して私も涙が出そうになっていた。

雨の夜、電車の中でひとり泣く女性。なかなか絵になるじゃない。詩的。心に訴えかけるなにかがあるわ。この女性になにがあったのか。

 

そんなことを考えていたら、女性がふと、顔をあげた。

なんとその女、ハンカチで顔を覆って携帯で電話してたんだよ。

電話を隠すためにうつむいてハンカチで顔全体を覆ってたんだよ。嗚咽してるように見えたのは相槌だったんだよ。

ヘラヘラ笑いながら「じゃあね~」という感じで電話を切ったババア。アホみたいな顔して中吊り広告なんかを眺めてやがる。

なんだよ。よくも騙しやがったな。私の感動を返せ、クソババアめ。